採用戦略とは?
採用戦略とは、企業が自社の求める人材を計画的かつ効果的に獲得するために立てる戦略のことです。
有効求人倍率が上がり続けている昨今、採用戦略なく場当たり的な採用活動を続けることは、そもそも選考における各ファネル(母集団形成数や内定承諾数)での指標未達や、再現性のない実行に繋がりかねません。
採用戦略を考慮する上では、経営戦略との連関性を考慮する必要があります。
経営資源の重要な要素である「人」を、
- 事業成長に伴う、更なる人員確保なのか?
- 現職メンバーの退職に伴う、欠員補充なのか?
- 事業の伸長を目指した、投資にあたる採用活動なのか?
採用戦略は、主にこれらのどの事象にあたるのか、事業を伸長するための組織方針や目標に沿って展開する必要があります。
加えて、企業側がただ自社経営指標だけを基にした、ひとりよがりな採用戦略になってしまうケースも多いです。
戦略立案の際には、候補者側の視点にも立つ必要があります。すなわち、どの採用候補者に対して(Who)、自社のどういった部分を(What)、どのように伝えるのか(How)を考慮することも重要となります。
本記事ではHeaRが発表したフレームワークも参照しながら採用戦略について解説します。
採用戦略が必要である背景
年々、「売り手市場」が加速する採用市場において、採用戦略の重要性は高くなる一方です。その背景についてご紹介します。
1.労働人口の減少
パーソル総合研究所が発表した「労働市場の未来推計(※1)」によると、2030年には労働需要に対して、644万人もの人手不足が発生すると言われています。
また、職業別に見た人手不足においては特に「専門的・技術的職業従事者」を中心に労働人口不足が顕著ですが、その他職種においても採用競争が激化することは必至です。
2.求職者ニーズの多様化に伴う求人倍率の上昇
「データブック国際労働比較2023(※2)」 における「青少年の転職に対する考え方」によると、「一生ひとつの場所で働き続けるべき」と考える割合は、12.5%(2008年)→4.4%(2018年)とハードル意識の低下が見られますが、これは欧米諸国と比較した際にまだまだ増加傾向にあります。
事実、厚生労働省の「民営職業紹介事業所数の推移(※3)」によると、職業紹介事業所数は過去10年で比較して1.64倍になっている等、転職者数はこれからも増える見込みです。
このように、「転職は当たり前」になる一方で、特定職種における人気・不人気(※4「職業人気度についての考察-リクルートワークス研究所」)や、近年のITエンジニアの有効求人倍率に見られるように、専門性の高い職種における「売り手市場」が明確化しつつあることから、ただ採用媒体を活用するだけでは、競合他社との採用競争に競り勝てない状況はこれからも激化の一途をたどる見立てです。
(※2:https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2023/documents/Databook2023.pdf)
(※3:https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000920809.pdf)
(※4:https://www.works-i.com/project/deskless/real/detail001.html)
採用戦略を立てることによるメリット
採用戦略を立案することで、以下の3つのメリットが得られます。
1.全社最適な判断における採用活動が可能になる
前述の通り、採用戦略は経営戦略を前提として策定されます。
ボードメンバーからマネージャーレイヤーまで、経営戦略において合意が取れている状態であれば、採用戦略における大きな乖離は発生しにくくなります。
よって、全社的に「どういった方を採用したいのか?」についても合意を取りやすいことから、リファラル採用/アルムナイ採用の促進にも繋がります。
2.採用ターゲットからの応募数増加
採用戦略策定においては、「ペルソナ」と呼ばれる、自社にとって理想の求職者像を作成します。これにより、求職者が「いつ」「どのようなシーンで」「どのように」転職活動や転職先企業を検討するかといった行動心理をよりイメージしやすくなります。
よって、採用広報記事や求人票、スカウト文面のアップデートにおいても具体的な魅力訴求を想定することが可能となることから、ターゲットからの応募率改善が期待できます。
3.内定承諾率 / 入社後定着率の向上
上述同様、採用ペルソナ策定を通して、自社(転職先)に求めるものは何か、何を期待しているのかを具体的に描き出すことができるため、求職者への訴求の方向性やが定まりやすくなります。
これにより、採用ペルソナと同じ志向性を持つ求職者へアプローチするための施策を企画/実行しやすくなることで、選考辞退率の改善や内定承諾率の向上に繋げることが可能です。
また、入社後に活躍をするメンバーの特徴やマインドセットなどをペルソナ像の策定に組み込むことで、入社後のミスマッチを減らし、定着率の向上にも寄与します。
採用戦略立案の流れ
経営戦略や事業戦略など、「戦略策定」において重要なのは市況感や環境分析、客観的な自社の立ち位置を把握することです。これを適切に考慮した上で、具体的な戦略について考えます。
1.採用における目的を明確化する
採用の目的は事業計画や部署毎の人材状況に紐づきます。中長期的な企業方針を把握し、各事業部における人員計画を策定した上で、採用活動をスタートしましょう。
また、この際に経営陣や事業部責任者等、採用担当のみならず採用以降で関わることになるメンバーを巻き込んでおくことがポイントです。常に事業戦略から乖離がないか、事業戦略のアップデートに紐づいて人員計画の変更は必要ないかを確認しながら、採用活動を続けることが重要となります。
2.経営戦略に紐づく採用ペルソナを策定する
続いて、上記で策定した人員計画や採用目的を考慮した上で、採用ペルソナを策定します。
ペルソナを設定することで、活動全体の指標が定まり、より効率的にかつ円滑に採用を進めることができます。
またこの際、「採用ターゲットの策定」と混同されがちですが、この2つは似ているようで明確な違いがあります。それは、設定方法とパーソナリティの有無です。
ターゲットの場合、性別や年齢、年収など一般的なデータから層を分けて「絞り込む」ように設定します。一方でペルソナは、1人の人物を想定して、より詳細な人物像を「作り込んでいく」設定方法です。そのため、設定の仕方が大きく異なります。
ターゲットは「人材層」を指すのに対し、ペルソナは「特定の1人」を想定するためパーソナリティを持っています。一般的なデータだけでなくライフスタイルや趣味なども加味して設定することが多いです。
具体的な策定方法は下記の記事で詳細に解説しておりますので、ぜひご参照ください。
【決定版】採用要件(ペルソナ)の設計方法&フレームワークを大公開
3.自社の強みや弱みを分析し、採用市場における自社の立ち位置を把握する
「誰を」採用したいのかの特定が終われば、次は「何を」訴求することで採用成功を目指していくかを検討します。
その為には、自社が持っている採用市場における強みや弱みを明確にすることが重要となります。
弊社では、3C/4P分析といったフレームワークを用いて、求職者/自社/採用競合企業それぞれのニーズや強み、弱みを整理することを推奨しています。
具体的な整理方法は下記の記事で詳細に解説しておりますので、ぜひご参照ください。
3C・4P分析|採用活動や広報で使える人事戦略のフレームワークを公開
1.採用ペルソナが自社を認知し、入社後定着するまでのキャンディデートジャーニーマップを策定する
「誰を」採用する為に、「何を」訴求するのかの整理が完了したら、次は「どのように」届けるかになります。適切な採用広報施策や選考設計を検討するにあたって、策定した強みや弱み次第では、
- 候補者が自社を認知するフェーズで訴求すべきか?
- 候補者へ内定出しから内定承諾を促すタイミングで訴求すべきか?
など、どの選考フェーズにおいてどの魅力を伝える必要があるのかを整理する必要があります。
そこで、役立つ整理手法のひとつとして、「キャンディデートジャーニーマップ」を推奨しています。候補者が企業を認知するところからはじまり、応募前後のやりとりや選考中、入社に至るまでのオンライン/オフライン上での接点(タッチポイント)において、どのような体験を与えているかを見直しましょう。
マーケティングにおいても採用においても、特に重要なのはコンバージョンに近いポイント、つまり内定承諾率の改善が採用成功への最も近道です。「母集団形成に苦戦している」という企業は多いですが、この改善だけでも必要な母集団数を削減することに繋がるケースも多いので、まずはこのファネルからだけでも見直すことがおすすめです。
具体的な整理方法は下記の記事で詳細に解説しておりますので、ぜひご参照ください。
候補者体験|採用CX(Candidate Experience)とは
2.採用ペルソナに紐づく市況感を把握し、適切な予算設定を行う
近年の売り手市場において、採用チャネルや訴求手段は多角化しています。
まずは採用ペルソナを多く含有する媒体/人材紹介会社がどこなのか?その運用feeや成果報酬feeなどをリサーチすることに加えて、採用広報施策において必要な予算も策定しておきましょう。特に採用広報施策等の次年度以降にも使える採用施策を検討する場合は、次年度以降に活用する可能性を見越して、ある程度潤沢な予算を確保しておくことも重要です。
採用戦略を成功に導くためのポイント/注意点
採用戦略は「立てただけ」では意味がありません。適切に運用する為にも、特に下記の点には留意しておきましょう。
1.社内の関連部署と連携を強化する
- 経営戦略との乖離がないか
- 関係部署において必要な人員数やその要件に変更はないか
これらは、常に現状を把握しておく必要があります。その為にも、採用が全社的に重要な活動であることを認知してもらい、協力的な体制を構築することが重要です。どのような採用活動を行なっているのか、最近の母集団の特徴など、社内広報などを通して、社内調整は入念に実施することも採用成功の近道です。
2.採用戦略のフィードバックを行う・PDCAを回す
昨今の採用市場の流動性を加味すると、期初に決定した採用戦略から、期中にアップデートの必要が発生する場合も多分にあります。
- 採用ペルソナから乖離した施策が一人歩きしていないか
- 現在の市況感がどのようになっているのか
については、常に定点観測しておくことが重要です。採用担当同士でのコミュニティや、採用コンサルタント等の外部リソースを活用しながら、無駄のない採用活動を実施しましょう。
3.「絶対に採用ができる」採用媒体や人材紹介会社がないことを理解する
前述の通り、現在の採用市場は常に「売り手」つまり、候補者に企業が「選ばれる」時代です。
特に採用難易度の高いターゲットにおいては、かなりの求人倍率であるケースも多いことから、転職潜在層へのアプローチ(認知を目的とした採用広報活動)も含めて検討する必要があります。
採用戦略や紐づいた広報施策等がない状態で、ただ媒体露出を増やしたり、人材紹介会社の活用数を増やすだけでは、採用成功まで結びつきません。ただ母集団形成数を増やすアプローチだけではなく、その他の選考過程に課題がないか等も見直しましょう。
採用戦略を採用活動に活かした事例
弊社にてご支援した企業の事例についてご紹介いたします。
国内アバターアプリ運営企業様における事例
<課題>
- ハイクオリティなゲームを開発/運営しているため、採用基準がかなり高かった
- 採用ターゲットと出会えても、他社を優先されて内定承諾まで辿り着かない状況
- ペルソナを採用するため、エンジニア採用のリブランディングを行う必要性があった
<施策>
採用コンセプトの策定
- 社内の全エンジニア社員から応募きっかけと入社の決め手をヒアリング
- 動機付け傾向として強かった「プロダクトの社会的意義」を造語で打ち出し
- 採用サイト改修、採用広報記事の制作、採用ピッチ資料制作を通して、候補者へ訴求
<成果/変化>
- 再現性の高いエンジニア採用の地盤構築を推進
- これまで偶発的な採用成功しかなかったものの、当社支援から6ヶ月以降で、月次2名の採用成功が継続的に発生し、年間採用目標の達成に寄与
- 採用コンセプトに共感したエンジニアの採用成功に貢献
- 入社後1年以内での離職率は0%で推移
まとめ
採用戦略は採用活動の土台となる部分であるため、全社的な巻き込みも重要なファクターです。
今回ご紹介したようなフローにおいて、フレームワーク等も有効活用しながら、有効な採用戦略を立案しましょう。
弊社では、これらの支援を累計120社以上行なってきておりますので、お困りの際は是非ともご相談ください。
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