
エンプロイージャーニーマップ(Employee Journey Map)とは、従業員が入社してから退職するまでの体験を、フェーズごとに「希望・困難・施策・心理状態・KPI」で可視化した表です。EX(従業員体験)との関係、キャンディデートジャーニーマップとの違い、7つのフェーズの区切り方、作り方6ステップ、そのまま使えるテンプレートと記入例、運用の失敗例までを解説します。(2026年9月更新)
エンプロイージャーニーマップとは、従業員が入社してから退職するまでに企業の中で経験する出来事を時系列に並べ、各フェーズで「従業員の希望」「起きやすい困難」「施策」「得られる心理状態」「KPI」を1枚の表に可視化したものです。EX(従業員体験)を向上させるための設計図にあたり、入社前の候補者体験を扱うキャンディデートジャーニーマップと対になります。
マーケティングのカスタマージャーニーマップを、採用と組織づくりに応用した枠組みです。3つのマップの違いを整理すると次のようになります。
| マップ | 対象 | 期間 | 主に使う部門 | ゴール |
|---|---|---|---|---|
| カスタマージャーニーマップ | 顧客 | 認知〜購入〜継続 | マーケティング・CS | 購入と継続率の向上 |
| キャンディデートジャーニーマップ | 候補者 | 認知〜応募〜選考〜内定承諾 | 採用 | 応募数と内定承諾率の向上、辞退の防止 |
| エンプロイージャーニーマップ | 従業員 | 入社〜オンボーディング〜活躍〜退職 | 人事・現場マネージャー | 定着率とエンゲージメントの向上、早期離職の防止 |
候補者側のマップの作り方はキャンディデートジャーニーマップの作り方で解説しています。採用の接点で約束したことが入社後に守られているかを確かめるには、2つのマップを並べて見るのが最も早い方法です。
EX(Employee Experience=従業員体験)とは、従業員が会社の中で働くことを通して得るすべての経験のことです。転職が当たり前になり、候補者体験(CX)を磨いて採用できても入社後の体験が悪ければ人は離れるため、採用と定着を一続きで設計する必要が出てきました。
EX(Employee Experience=従業員体験)とは、従業員が会社の中で働くことを通して得る全ての経験のことです。これは、働くことで得られるスキルや経験のみならず、福利厚生をはじめ、組織内のさまざまな要素から構成されています。感情的な経験も大いに関係してくるのが、特徴です。現代は働き方も多様であり、フリーランス人口も増え、企業に長年所属せず転職を重ね、一社に留まるケースが少なくなってきました。そのため、企業は従業員に自社で働く意義や価値をこれまで以上に提供しなければ、優秀な人材は集まらなくなってしまいました。最近では、優秀な人材を獲得し、自社のファンを作るCX(Candidate Experience=候補者体験)と入社後のEXがセットで重要とされています。たとえCXが良くても、入社後ギャップを感じてしまったり、EXが悪いと人々は離れてしまいます。そこで、EXの向上も欠かせないものになりました。
入社後に何が起きているかは、社員に聞くのが最も確実です。HeaRが2026年に支援先の上場企業(営業職が中心・回答330名)で実施した社員アンケートでは、入社前の不安の上位は「人間関係・上司」38.6%、「評価・給与」35.6%、「入社後に活躍できるか」31.3%でした。入社前後のギャップは「業務内容」13.1%、「勤務時間・業務量」10.9%、「職場の雰囲気」10.6%と分散し、不安が解消された接点は「入社後の人柄や相談しやすさ」14%、「給与・評価の具体的な説明」12%、「面接での対話」11%が上位です。
| 設問 | 上位の回答 | エンプロイージャーニーマップへの示唆 |
|---|---|---|
| 入社前に不安だったこと | 人間関係・上司 38.6%/評価・給与 35.6%/活躍できるか 31.3% | 入社〜オンボーディングのフェーズに「人に会う接点」と「評価の説明」を置く |
| 入社前後で感じたギャップ | 業務内容 13.1%/勤務時間・業務量 10.9%/職場の雰囲気 10.6% | 配属・業務フェーズの「起きやすい困難」欄の初期値になる。選考での開示とセットで直す |
| 不安が解消された接点 | 入社後の人柄・相談しやすさ 14%/給与・評価の具体説明 12%/面接での対話 11% | 施策欄の優先順位。制度より「誰が・いつ・何を話すか」を先に設計する |
出典: HeaRが支援先で実施した社員アンケート(2026年・回答330名・匿名集計)。割合は複数回答の選択率、自由記述はキーワードでの概算分類です。
エンプロイージャーニーマップを作る目的は、従業員がつまずくフェーズを特定し、限られた人事の工数をそこに集中させることです。早期離職の防止、エンゲージメントの向上、人事施策の優先順位づけ、採用で伝えた内容と入社後の実態の一致、の4つの効果があります。
採用時に伝える自社の魅力の整理は採用の4P、入社後の定着を早める具体策はオンボーディング完全ガイドを参照してください。
フェーズは、入社、オンボーディング、配属、業務、育成、評価、退職の7つに区切るのが基本です。必要に応じて手前に「内定〜入社前」、後ろに「退職後(アルムナイ)」を足しますが、最初から細かくしすぎると埋まらない列が増えるため、7フェーズから始めて運用しながら増やしてください。
| フェーズ | 期間の目安 | 従業員が望むこと | 起きやすい困難 |
|---|---|---|---|
| 入社 | 入社日〜1週間 | 入社して良かったと感じたい。ホッとしたい | PCやアカウントが揃っていない、誰が迎えるか決まっていない(準備の壁) |
| オンボーディング | 〜3ヶ月 | 早く会社に慣れたい。相談できる人がほしい | 業務は教わるが雑談できる相手がいない。馴染めずストレスを抱える(人間関係の壁) |
| 配属 | 3ヶ月前後 | 業務や職場の雰囲気を早くキャッチアップしたい | 業務内容が属人化していてキャッチアップが難しい。「何をどこまでやれば評価されるか」が曖昧(期待値の壁) |
| 業務 | 〜1年 | 成長して成果を出したい | 他社より高いノルマやスキルを求められ、挫折しやすい。最初の成功体験が遠い(成果の壁) |
| 育成 | 1〜3年 | 成長できる機会がほしい | 毎日ルーティン業務ばかりでモチベーションが下がる |
| 評価 | 半期・年次 | 正当な評価を受けたい | 評価制度がなく、正当な評価を受けていないと感じる |
| 退職 | 退職決定〜最終出社 | 円満に退職したい | 退職しづらい、引き継ぎがスムーズにいかない |
「従業員が望むこと」と「起きやすい困難」は、前の章の社員アンケートのように自社の従業員に聞いて埋めるのが原則です。オンボーディングから業務までのつまずきは、準備・人間関係・期待値・学び・成果の5つの壁に整理できます(詳細はオンボーディング完全ガイド)。
作り方は、ペルソナ設計、フェーズの分類、従業員の希望の書き出し、起きやすい困難の洗い出し、施策と心理状態の設定、KPIの設定の6ステップです。着手前に、対象となる従業員数名へのヒアリングか社内アンケートで材料を集めておくと、机上の想像ではない表になります。
前提として、誰の体験を描くかを先に決めます。全社員を1枚で描こうとすると平均像になって施策が決まらないため、まずは「中途入社の営業職」「新卒の技術職」のように、離職や立ち上がりの遅れが目立つ層を1つ選んでください。
Employee Journeyを作る上ではCustomer Journey(カスタマージャーニー)と同様、ペルソナの設定が必要となります。採用のペルソナ同様しっかり設計していきましょう。
従業員が入社してから退社するまでの一連の流れは、いくつかのフェーズに分けることができます。具体的には、以下のようなものが考えられます。
各フェーズがどれくらいの期間なのかも追記すると良いでしょう。前の章のフェーズ一覧を、自社の実態に合わせて増減させてください。
EXをより充実させるためには、各フェーズにおいて、設定したペルソナが望んでいることや得たいことを書き出します。たとえば、入社時は「入社して良かったと感じたい。ホッとしたい」といった希望があります。その希望を叶えられるように、下の欄で施策を洗い出していきましょう。
ここでは、各フェーズにおいて起きやすいトラブルや遭遇する困難を書き出します。今自社で課題となっている部分をあげても問題ありません。たとえば、業務マニュアルの整備が追いついておらず、配属された人が業務に慣れるまで時間がかかるといった具合です。そうすれば、その課題を改善しなければならないのがわかります。
上記で出た課題や、遭遇するであろう困難の洗い出しができれば、それらの課題を解決する施策や、直面する困難を防止する施策を考えましょう。自社ならではの問題がここで解決できるように具体的に書き出しましょう。そして、それらの施策を行うことで、従業員がどのような感情を抱いてほしいのかを考えましょう。エモーショナルな部分を具体的にイメージすることで従業員の気持ちにも寄り添うことができますし、1on1でも相手の心理状態がフェーズに応じてわかりやすくなります。
EXは常にKPIを回していかなければなりません。そのためには、「とりあえず良さそうな施策をやればいい」という進め方は避けるべきです。目に見える基準や指標を設け、達成できたか否かを振り返り、施策の良し悪しを評価していかなければなりません。評価基準に、エンゲージメント指数を活用するのも良いでしょう。
以上のステップを終えることで、注力してEXを向上すべきフェーズが明確になります。自社では今どこができていて、できていない部分は何かを可視化していきましょう。
テンプレートは、7つのフェーズごとに「従業員の希望」「起きやすいトラブル・困難」「EX向上施策」「得られる心理状態」「KPI・評価基準」の5項目を書き込む表です。HeaRが支援先で使っている型で、そのままスプレッドシートに写して使えます。
| フェーズ | 従業員の希望 | 起きやすいトラブル・困難(現在の課題) | EX向上施策 | 得られる心理状態 | KPI・評価基準 |
|---|---|---|---|---|---|
| 入社 | 入社して良かったと感じたい。ホッとしたい | 入社したことに自信を持てず、不安を抱く | 歓迎会、社員との交流 | この会社に入って良かった | 入社に関する過度な不安発言がない |
| オンボーディング | 早く会社に慣れたい | 馴染めずストレスを抱えてしまう | OJTやメンターをつける | 慣れてきたので、早く貢献したい | 入社後半年間の離職率ゼロ |
| 配属 | 業務や職場の雰囲気をキャッチアップしたい | 業務内容が属人化していて、キャッチアップが難しい | マニュアル整備、成功体験を早くできるよう支援 | これなら自分でもキャッチアップしてどんどん成長できそう | 成功体験を一定確保できる業務ができている |
| 業務 | 成長して成果を出したい | 他社より高いノルマやスキルを求められ、挫折しやすい | 日々の中で従業員の心理をヒアリング(1on1) | 思いを表出することで、業務にも反映され、働きやすい | やりがいを実感している。自社に貢献したいという意思がある |
| 育成 | 成長できる機会がほしい | 毎日ルーティン業務ばかりでモチベーションが下がる | レベルに応じて新たな機会を提供 | やりたいことができるように会社がバックアップしてくれる | スキルやレベルに応じて新たな機会が提供できている。従業員自らが機会を生み出している |
| 評価 | 正当な評価を受けたい | 評価制度がなく、正当な評価を受けていないと感じられない | 正当な評価基準を設ける。目標と現状を照らし合わせながら適切なフィードバックを行う | 正当な評価を受けられ納得 | 目標どおり、またはそれ以上の成果が出ている |
| 退職 | 円満に退職したい | 退職しづらく、引き継ぎがスムーズにいかない | 全体的なEXの向上 | この会社で働けて良かった | 退職率が一定以内 |

表のセルは「一般論」ではなく、自社で実際に聞いた言葉で埋めてください。従業員の希望の欄に本人の発言をそのまま書いておくと、施策の議論が制度論に流れにくくなります。
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中途入社の営業職を対象にした記入例です。社員アンケートで最も多かった「人間関係」「評価・給与」「業務内容のギャップ」の3つの不安を、フェーズごとの施策で先回りして解消する設計になっています。
| フェーズ | 本人の希望 | 起きやすい困難 | 施策(誰が・いつ) | KPI |
|---|---|---|---|---|
| 入社(1週目) | 選んで良かったと早く思いたい | 選考で聞いた話と現場の温度差を感じる | 初日に上司が「30日・90日で期待すること」を文書で渡す(上司・初日) | 初週の1on1で不安の発言が具体的に出ている(言えない状態が最悪) |
| オンボーディング(〜3ヶ月) | 相談できる相手がほしい | 業務は教わるが雑談相手がいない | 上司とは別に同職種のメンターを付け、初週にチーム外ランチを設定(人事・1週目) | 3ヶ月時点の本人サーベイで「相談相手がいる」が肯定 |
| 配属〜業務(3〜6ヶ月) | 早く1件受注したい | 既存顧客の引き継ぎが属人化、テレアポ比率が説明より高い | 1ヶ月以内に完了する小さな成果を用意し、チームに共有する場を作る(マネージャー)。業務比率は選考時の説明と一致させる | 90日以内の初受注率、業務内容のギャップ申告率 |
| 育成(6ヶ月〜1年) | 次の機会がほしい | ルーティン化してモチベーションが下がる | 半期ごとに担当領域か商材を1つ広げる。学習費用の補助 | 半期サーベイの「成長実感」スコア |
| 評価(半期) | 納得できる評価を受けたい | 評価基準が見えず、給与の根拠が分からない | 評価項目と昇給ロジックをオファー時と入社半年で2回説明する(人事・上司) | 評価面談後の納得度、評価を理由にした退職ゼロ |
| 退職 | 円満に辞めたい・戻れる関係でいたい | 引き継ぎが個人任せ | 退職面談で「戻ってきてよい」と伝え、アルムナイ登録を案内 | 1年以内の離職率、アルムナイ経由の再入社・紹介数 |
入社前の段階(内定〜入社日)の施策は内定者フォローの進め方、内定辞退を防ぐ設計は内定承諾率の平均と改善策で扱っています。
エンプロイージャーニーマップで最も多い失敗は、作って共有した時点で終わることです。半期ごとにKPIと本人サーベイで見直し、困難欄を実際に起きた出来事で更新し続ける運用にして初めて、離職率やエンゲージメントの数字が動きます。
| よくある失敗 | 何が起きるか | 対策 |
|---|---|---|
| 作って終わりにする | 1年後には実態とずれ、誰も見ない表になる | 半期の評価サイクルに見直しを組み込み、更新担当を決める |
| 全社員を1枚で描く | 平均像になり、施策が「1on1をやる」で止まる | 職種×入社区分でペルソナを分け、離職が目立つ層から作る |
| 希望と困難を想像で埋める | 人事の思い込みが施策になる | 社員アンケートと退職者面談の記録から引用する |
| KPIを置かない | 施策の良し悪しが判断できず、追加されるだけ | フェーズごとに1つ、測れる指標を置く(離職率・初受注までの日数・サーベイ) |
| 採用側のマップと分断する | 選考で伝えた魅力が入社後に実感できず、ギャップで辞める | キャンディデートジャーニーマップと並べ、約束と実態を突き合わせる |
| 現場マネージャーが関与しない | 施策が人事だけの取り組みになり、配属以降が動かない | 施策欄に「誰が・いつ」を書き、マネージャー研修の教材にする |
現場の面接官やマネージャーがコンセプトを自分の言葉で語れる状態をつくる方法は、面接官研修の解説で扱っています。カルチャーへの適合を入社前に確かめる考え方はカルチャーフィットの解説を参照してください。
AIを使うと、社員アンケートの自由記述や1on1の記録をフェーズ別に分類し、「希望」と「困難」の欄の下書きを短時間で作れます。従来は人事が数百件の記述を読んで分類していた工程で、AIに「7つのフェーズと5つの行に仕分けし、根拠となる発言を引用する」と指示すれば、数時間の作業が数十分になります。
AIが作った下書きは、必ず当事者の従業員に確認してから表に載せてください。発言の引用は本人の同意を得たものだけを使います。
採用・人事領域で使えるAIツールの比較はAI採用ツールの比較にまとめました。
※AIの活用範囲と度合いは、媒体や要件により異なります。
人事担当者からよく寄せられる質問をまとめました。
A. 対象と期間が違います。キャンディデートジャーニーマップは候補者が自社を知ってから内定を承諾するまで、エンプロイージャーニーマップは入社から退職までを扱います。採用で約束した魅力が入社後に実感できているかを確かめるために、2つを並べて使うのが効果的です。
A. EXは従業員が働くことを通して得る体験そのもので、エンプロイージャーニーマップはそのEXを設計・改善するための道具です。EX向上の施策を一覧で考える前に、マップでどのフェーズに困難が集中しているかを見ると、施策の優先順位が決まります。
A. 入社・オンボーディング・配属・業務・育成・評価・退職の7つが基本です。内定から入社までの期間や、退職後のアルムナイを足す場合もありますが、最初は7つで作り、運用しながら分割するほうが埋まらない列を減らせます。
A. あります。従業員が少ない会社ほど1人の離職の影響が大きく、マップで「どこでつまずくか」を共有しておくと、社長やマネージャーが属人的に対応していた部分を仕組みにできます。1枚の表で十分なので、まず離職が目立つ職種から作ってください。
A. フェーズごとに1つずつ、測れる指標を置きます。例として、入社直後は初週の1on1での不安の表出、オンボーディングは半年以内の離職率、業務は初受注や独り立ちまでの日数、育成は成長実感のサーベイ、評価は評価面談後の納得度、退職は1年以内の離職率です。
A. 人事が更新担当を決め、半期の評価サイクルに合わせて見直すのが現実的です。困難の欄は実際に起きた出来事で更新し、施策欄の「誰が・いつ」は現場マネージャーと一緒に確認します。年1回では実態からずれるため、最低でも半期に1回は更新してください。
エンプロイージャーニーマップは、従業員の希望と困難をフェーズごとに可視化し、施策とKPIを1枚で管理するための表です。企業は良い人を採用して終わりではなく、入社してから活躍し、満足して働けるよう努力し続ける必要があります。テンプレートは本記事の表をそのまま使えるので、まず離職や立ち上がりの遅れが目立つ職種を1つ選び、当事者に聞いた言葉で埋めるところから始めてください。
HeaRでは累計250社以上の採用支援の経験をもとに、候補者体験(CX)と従業員体験(EX)を一続きで設計する支援を行っています。採用で伝えた魅力が入社後に実感できているか、という点検の段階からご相談いただけます。候補者側の設計は採用CXの設計もあわせてご覧ください。
採用課題に合わせた最適な打ち手を、HeaRが共に設計します。
まずは資料でサービスの全体像をご確認ください。