
採用CX(候補者体験)とは、候補者が企業を知ってから入社するまでの体験の質のこと。選考辞退の経験者は6割を超え、辞退は面接前と面接後に集中します。定義から設計4ステップ、フェーズ別の改善施策、KPIの測り方まで、累計250社を支援するHeaRが実務目線で解説します。(2026年9月更新)
求職者「を」選ぶ時代から、候補者「が」選ぶ時代に変わりつつある採用市場。企業が選ばれる立場になったいま、候補者が選考の中で何を感じたかを設計する「採用CX(Candidate Experience=候補者体験)」に注目が集まっています。この記事では、採用CXの定義と必要性、5つのフェーズと108のタッチポイント、設計の4ステップ、フェーズ別の改善施策、効果の測り方までを、累計250社以上の採用支援で得た知見をもとに解説します。
採用CXとは、候補者が企業を認知してから応募・選考・内定を経て入社するまでの一連の体験を、企業側が設計・改善する考え方です。CXは「Candidate Experience(候補者体験)」の略で、顧客体験を指す「Customer Experience」の採用版にあたります。合否にかかわらず「この会社を受けてよかった」と感じてもらうことが目的です。
「候補者体験」「採用体験」「キャンディデートエクスペリエンス」は、いずれも同じ概念を指す表記ゆれです。人事の実務では「採用CX」と略すことが多く、本記事でもこの表記で統一します。
採用CXの対象は選考の場面だけではありません。求人票の文面、応募後の返信スピード、面接官の態度、内定通知の伝え方、入社前のフォローまで、候補者が企業に触れるすべての接点(タッチポイント)が含まれます。HeaRが自社で洗い出したところ、この接点は108個ありました。一覧は採用CXのタッチポイント108項目(無料ダウンロード)で公開しています。
採用CXが必要な理由は、候補者が複数社を同時に比較し、体験の差で辞退先を決める時代になったからです。エン・ジャパン社が2023年に転職者8,622名に行った調査では、選考を辞退した経験のある人は61%で、辞退は面接前(46%)と面接後(45%)に集中していました。応募から面接までの体験が、そのまま採用の歩留まりを決めています。
この構造を生んでいる背景は4つあります。
日本の人口は総務省統計局の調査によれば、2008年の1億2,808万人をピークに減少を続けています。労働人口が減れば企業間の人材獲得競争は激しくなり、企業はこれまで以上に候補者から選ばれる必要が出てきました。
大手企業の経営者や経済団体から「終身雇用の維持は難しい」という発言が相次ぎ、転職は当たり前の選択肢になりました。人材獲得に悩まなかった大企業ですら、入社してもらうための活動を行うようになっています。自社を選び続けてもらうための活動の重要度が増しています。
口コミサイトやSNSを通して、候補者は選考の実態や社員の本音に触れられるようになりました。エン・ジャパン社の同じ調査でも、面接前の辞退理由の2位は「ネットで良くない口コミを見た」(27%)、3位は「企業の応対が悪かった」(20%)です。選考の中で感じた不満は、その候補者の辞退で終わらず、次の候補者の応募判断にも影響します。
面接や説明会のオンライン化が定着し、対面なら伝わっていた社内の雰囲気や社員の人柄が伝わりにくくなりました。その分、返信の速さ、面接官の準備、資料の質といった「設計できる体験」の差が候補者の印象を左右します。
エン・ジャパン社の調査で、面接後の辞退理由の1位は「求人情報と話が違った」(49%)でした。自社に合わない人を多く集めるより、自社に合う人を逃さないことが重要です。自社の文化や課題まで正直に伝える選考体験は、候補者との相性を測る手段でもあります。
採用CXに取り組むと、応募数・選考中の離脱・入社後のミスマッチの3つが同時に改善します。良い体験は口コミとして次の候補者に届き、丁寧な選考は辞退を減らし、正直な情報開示は入社後のギャップを小さくするからです。
顧客体験の良いサービスが口コミで広がるのと同じことが、採用でも起きます。カジュアル面談や面接で良い体験をした候補者は、SNSや知人にその体験を話します。「あの会社の面談は候補者のキャリアに向き合ってくれる」という評判が、新しい応募につながります。特にエンジニアはリファラルで動くことが多く、採用CXの向上はこれまで接点のなかった層への入口になります。
優秀な人材ほど複数社の選考を同時に進めており、候補者は必ず他社と比較します。企業規模や条件でも比較されますが、採用CXの良い企業の選考は「最後まで話を聞いてみよう」と思ってもらいやすく、辞退されにくい傾向があります。
採用CXは候補者を気持ちよくさせることではありません。自社の魅力も課題もオープンに伝え、誠実に向き合うことで初めて成立します。候補者は企業が抱える本当の課題を知りたがっています。課題を理解した上で入社してもらえれば、入社後のギャップは小さくなります。
採用CXは、企業準備・認知・応募・選考・内定/入社の5つのフェーズに分けて考えると設計しやすくなります。HeaRが自社の候補者との接点を洗い出したところ、合計108のタッチポイントがありました(入社後の活躍フェーズを含めて採用CXと定義する場合もあります)。各フェーズの目的と、辞退が起きやすい理由を整理したのが次の表です。
| フェーズ | 目的 | 主なタッチポイント | 辞退が起きやすい理由 |
|---|---|---|---|
| 0. 企業準備 | 自社の魅力と採用基準を言語化する | 4P・ペルソナ・採用基準・面接官ロープレ | 準備不足が後のフェーズで「話が違う」「面接官の質問が浅い」として表面化する |
| 1. 認知 | 転職意欲の有無にかかわらず好印象を持ってもらう | 採用サイト・インタビュー記事・社員SNS・プレスリリース | 情報が無い、または口コミと発信が食い違う |
| 2. 応募 | 誠実な対応で信頼を得る | 求人票・スカウトメール・応募フォーム・返信 | 返信が遅い、テンプレート感のある対応 |
| 3. 選考 | 入社意欲を高め、相互理解を深める | 採用ピッチ資料・面接官の質問・候補者の質問への回答・クロージング | 面接官の準備不足、求人情報との齟齬、志望度を上げる働きかけが無い |
| 4. 内定/入社 | 内定承諾と入社初日までの不安を解消する | 条件交渉・内定通知・内定者フォロー・入社前研修 | 他社の内定との比較、条件への不満、放置される不安 |
各フェーズの代表的なタッチポイントを抜粋して紹介します。
人を採用する目的は「事業を伸ばすため」です。採用活動を始める前に、自社がどのような事業を展開していて、どの指標を伸ばす必要があり、そのために必要なスキルやマインドは何かを分解します。
認知フェーズの目標は、自社に対して好印象を抱いてもらうことです。転職意欲の有無にかかわらず、自社が望むスキルやマインドを持つ人がターゲットです。転職意欲がない頃から会社を知ってもらうことで、実際に転職活動を始める際の候補に入りやすくなります。
候補者は複数社の選考を受けている可能性があります。応募からのレスポンスが遅かったり、コミュニケーションに誠意を感じなかったりすると、候補者は辞退します。誠実に対応することを意識して、候補者からの信頼をつかみましょう。
入社意欲を高める重要なフェーズです。オンライン・オフラインの採用体験に一貫性を持たせることで、候補者は安心して選考に進めます。自社の魅力だけでなく、課題も含めてしっかりと伝えましょう。
内定を出した後も油断は禁物です。内定を出した企業は自社だけとは限りません。内定承諾をしてもらうため、内定後のフォローやケアは欠かせません。面談や社内イベントなどで継続的に接点を作っていきましょう。
採用CXの設計は、歩留まりの現状分析から始めて、自社の魅力の整理、ペルソナ、採用コンセプトの順に進めます。施策から入ると「良さそうな取り組み」の寄せ集めになり、どの候補者のどの体験を変えたいのかが定まらないからです。
認知から応募・選考・入社に至るまで、フェーズごとの通過率と辞退率を出し、どこで候補者を失っているかを明確にします。採用のボトルネックを特定し、最も影響の大きい課題から着手することで、改善の効率が上がります。
3C(Company・Candidate・Competitor)と4P(Philosophy・Profession・People・Privilege)の観点で、競合との差別化ポイントと自社の魅力を整理します。候補者が併願している企業と比べて自社が取るべき立ち位置が決まると、伝えるべき魅力が絞れます。4Pの使い方は採用の4Pの記事、競合の見つけ方は採用競合の分析方法の記事で解説しています。
採用対象となるターゲットと、自社の求める理想的な人物像(ペルソナ)を明確にします。求める人物の解像度が高いほど、実行すべき採用CX施策も具体的になります。ペルソナはイメージではなく、活躍している現社員をもとに設計します。設計手順は採用要件(ペルソナ)の策定方法の記事を参照してください。
ペルソナが決まったら、その人に響く採用コンセプトを設計し、各フェーズの体験に反映します。HeaRの場合は「働くって、青春だ」というコンセプトをもとに、選考の各フェーズで青春を感じてもらえる設計にしています。候補者の行動と感情を時系列で可視化するには、キャンディデートジャーニーマップの記事が役立ちます。
改善は、108の接点を一度に直すのではなく、候補者の入社意欲が動きやすいタッチポイントから優先順位をつけて進めます。HeaRでも自社の接点をすべて洗い出したうえで、改善できる箇所をひとつずつ振り返りました。
優先順位を決めたら、各タッチポイントで候補者に抱いてほしい心理状態を書き出します。たとえば「認知フェーズ×インタビュー記事」の接点で「この会社は青春している人が多い」と感じてほしいなら、記事の中でメンバーの青春エピソードや青春の定義を伝える、という具合です。心理状態が先、施策が後の順で考えると、施策の寄せ集めになりません。
フェーズ別に効果の出やすい施策を挙げます。
採用CXの効果は、フェーズごとの歩留まり率と候補者からの直接の声で測ります。「良い体験を提供できたか」を感覚で判断すると改善が続かないため、次の指標を選考段階ごとに追います。
| 指標 | 計算式 | 主に映すもの |
|---|---|---|
| スカウト返信率 | 返信数 ÷ 送付数 | ターゲティングと文面の個別化の質 |
| 応募後の面接設定率 | 面接設定数 ÷ 応募数 | 返信スピードと初回対応の誠実さ |
| 面接後の辞退率 | 辞退者 ÷ 面接実施者(選考段階ごと) | 面接官の惹きつけの質。求人情報との齟齬 |
| 内定承諾率 | 承諾者 ÷ 内定者 | 面接での志望度形成と内定後フォロー |
| 候補者アンケートの評価 | 選考後アンケートの満足度・推奨度 | 体験全体の質。不採用者にも聞く |
| 入社後の早期離職率 | 入社1年以内の離職者 ÷ 入社者 | 選考時の情報開示の正直さ |
運用のポイントは3つです。
自社の採用CXの現在地を確かめるための15項目です。HeaRが採用支援の初回診断で確認する観点のうち、辞退に直結しやすいものを108のタッチポイントから絞りました。「いいえ」が多いフェーズから着手してください。
| フェーズ | 確認項目 |
|---|---|
| 企業準備 | 1. 自社の魅力を4Pで言語化した資料がある |
| 企業準備 | 2. 面接官全員が同じ採用基準で評価している |
| 企業準備 | 3. 面接官のロープレやトレーニングを年1回以上行っている |
| 認知 | 4. 採用サイトや求人票に、仕事の大変さや課題も書いている |
| 認知 | 5. 口コミサイトの自社評価を四半期に1回以上確認している |
| 応募 | 6. 応募への一次返信を当日中に返す体制がある |
| 応募 | 7. スカウト文面を候補者ごとに書き換えている |
| 応募 | 8. 日程調整の往復が2回以内で終わる仕組みがある |
| 選考 | 9. 面接前に採用ピッチ資料を送っている |
| 選考 | 10. 面接官が候補者の職務経歴を事前に読んでいる |
| 選考 | 11. 面接の中で候補者からの質問に答える時間を確保している |
| 選考 | 12. 面接後、次のステップと連絡時期を候補者に伝えている |
| 内定/入社 | 13. 内定通知を電話やメール一本で済ませていない |
| 内定/入社 | 14. 内定から入社まで、2週間以上連絡が空かない |
| 内定/入社 | 15. 選考後に候補者アンケート(不採用者を含む)を取っている |
10項目以上に「はい」なら基礎はできています。5項目以下なら、まずステップ1の歩留まり算出から始めてください。
▶ 自社の採用CXの現在地を確かめたい方へ|採用のプロに無料で壁打ちする
HeaRが自社の採用で実践している施策を4つ紹介します。いずれも大きな費用はかからず、体制と準備で実現できるものです。
候補者は連絡が遅いと感じるほど「不安になる」「信用できなくなる」傾向があります。「返信の遅い会社はいい加減な会社だと思う」「当日中に連絡が来ない職場では働きたくない」という声もあり、応募者へのスピーディな連絡は面接や採用を成功させるための基本です。HeaRでは人事だけでなく、社員全員で連絡対応できる体制を整えています。
HeaRでは、面接の3日前に採用ピッチ資料を送付します。候補者は会社への大まかな理解が事前に済んでいるため、改めて会社紹介をする必要がありません。面接は「事前に送付した資料についての質疑応答から始めます」と、会社の深い部分についてのディスカッションからスタートできます。結果として候補者を深く理解でき、選考結果の精度も上がります。
メンバー同士で面接ロープレを実施し、お互いに評価し合います。話し方や立ち振る舞い、受け答えについて細かくフィードバックします。また候補者からいただいた質問集を社内で共有し、全員が同じ内容を回答できるよう、質の統一と向上を図っています。
内定は候補者にとって喜ばしい出来事です。HeaRでは内定通知というタッチポイントに付加価値を乗せ、選考に関わったメンバー全員で祝う形にしています。全員で喜ぶ文化を体現する施策のひとつです。
AIは、採用CXのうち「速さ」と「個別化」の2つを大きく改善します。返信の遅れやテンプレート文面といった、辞退の典型的な原因がAIで解消しやすくなった一方で、面接での惹きつけや内定後の関係づくりは引き続き人の仕事です。
AIが効く領域は主に2つです。
一方で、AIが埋めない領域も明確です。面接で候補者のキャリア課題を聞き出し、自社での解決策を語って志望度を上げること。内定後に不安を聞き、承諾までの関係を作ること。この2つは採用CXの中核であり、AIで空いた時間をここに投資するのが、AI時代の採用CX設計の基本形です。
A. 採用CXは「候補者体験を良くする」という考え方や取り組み全体を指し、キャンディデートジャーニーマップはそれを設計するための道具です。候補者の行動・思考・感情をフェーズごとに時系列で可視化した図で、どのタッチポイントを改善すべきかを見つけるために使います。作り方はキャンディデートジャーニーマップの記事で解説しています。
A. 採用ブランディングは「候補者にどう認知されたいか」を発信で作る活動で、主に認知フェーズを対象にします。採用CXは認知から入社までの体験全体を対象にし、発信した内容と実際の選考体験が一致しているかまで含みます。ブランディングで期待値を上げ、選考体験がそれを裏切ると、辞退や口コミの悪化につながります。
A. あります。採用CXの多くの施策(当日中の返信、面接官の事前準備、内定後のフォロー)は費用ではなく体制で決まるため、規模による不利がありません。むしろ知名度で選ばれにくい企業ほど、選考の中での体験が「この会社を選ぶ理由」になります。
A. 必要です。不採用者は採用者より人数が多く、口コミや知人への紹介を通じて次の候補者の応募判断に影響します。結果の連絡を早くする、理由を可能な範囲で伝える、今後の応募を歓迎する旨を添える、といった対応が最低限の採用CXです。
A. フェーズごとの歩留まり(通過率・辞退率)の算出から始めてください。どこで候補者を失っているかが分かれば、108の接点のうち直すべき場所が絞れます。数字が出せない場合は、本記事の自己診断チェックリストで「いいえ」の多いフェーズから着手するのが近道です。
A. 返信スピードや面接官の準備といった応募・選考フェーズの施策は、実施した月から面接設定率や面接後の辞退率に反映されます。認知フェーズの施策(採用広報・口コミ対策)は応募数に反映されるまで数ヶ月かかるため、指標を段階ごとに分けて追うことが重要です。
A. 必須ではありません。歩留まりの算出はスプレッドシートで足りますし、返信スピードは体制の問題です。応募者が月に数十名を超えて管理が追いつかない段階になったら、採用管理システム(ATS)やAIチャットボットの導入を検討してください。
採用CXを実践するために、自社を魅力的に見せるだけでは足りません。企業の価値観を体現するプログラムや、課題を含めた情報を偽りなくオープンに伝える姿勢が、候補者に選ばれる企業をつくります。まずは歩留まりの算出と自己診断から始めてみてください。採用CXの具体的な事例は採用CX事例8選(無料ダウンロード)にもまとめています。
▶ 採用CXの設計から実行まで伴走する採用コンサルティングの詳細はこちら
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